冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
「でも、会社側は私の住所も知ってますし、そんなことをしたらきっと怒鳴り込んできます。だからやっぱり……」
「退職届は内容証明で送り付けて、今後のやりとりは弁護士を通すよう書いておけば相手だってそこまで強引な手段には出ない。怒鳴り込んできたら警察に通報するまでだ。こちらに否はないし、色々調べられてまずいのは会社側だろ」
立ち上がった岩倉さんが、空になった食器を運ぶので私もそれにならう。
けれど、「まぁ、それでも不安が残るなら、数ヵ月は俺のところで過ごせばいい」と続いた言葉に、食器を持ったまま立ち止まってしまった。
「……はい? え、ここで……一緒に、ですか?」
よく知りもしない岩倉さんと私がどうして……とポカンとしている私の手から、岩倉さんが食器を取る。
「いや、この部屋はもう出て行くつもりでいたから、違うマンションでの生活になる。ここから車で二十分ってところだな。駅も近いしこの部屋より広さもある。新築でセキュリティーもここよりはしっかりしているから、その方がおまえも安心できるだろ」
食器をシンクに置いた岩倉さんが、電子ケトルをセットし、棚から白いカップをふたつ取り出す。
お湯が沸き、岩倉さんがコーヒーをドリップしている間も、答えが出せない……というよりは未だなにを提案されているのかが理解できずに立ち尽くしている私を、岩倉さんがチラッと見た。