冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
否定もできないので、「そうですね」と言い、給湯室に向かう。
途中で一度振り返ってみると、岩倉さんは私の作りかけていた書類を眺めていた。
見ているそばから、岩倉さんは付箋を取り出しパソコン画面に貼り付けたので、おそらくミスがあったんだろう。戻ったら直さないと。
本社の総務部は総勢十五人。
部長がひとりに、男性社員が五人、女性社員が七人、そしてパートさんがふたり。
デスクの並びは、部長が離れ小島で他は八人と六人の島でわかれている。それぞれ向かい合うように置かれているデスクには今もほとんどの社員が着席しているけれど、岩倉さんだけが浮いて見えた。
給湯室で、コーヒーをドリップする。
うちでいつも岩倉さんがしているようにお湯をゆっくりと回し入れると、いい香りが給湯室を包んでいく。
私はこれまで、牛乳にもお湯にもサッと溶けるインスタントコーヒーしか飲んでこなかったのだけれど、このドリップしている時間は好きだと感じていた。
香りの効果もあり、気持ちが落ち着いていく。
この二ヵ月間、岩倉さんはほとんど毎日部屋でコーヒーを入れていた。だから、この香りイコール平和だと、脳が結び付けたのかもしれない。
「やだー、出穂さん、コーヒー淹れる前にちゃんとカップ温めました?」
突然聞こえた高い声にビクッと肩が跳ねる。
私の手元を覗き込むように隣に並んだのは、同じ部署の筧さんだった。
私よりもひとつ年下で、髪やメイクに流行をとりいれているオシャレな人、というのが私の彼女に対するイメージだ。