冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
茶色く染めた髪は肩の長さで、呼吸の仕方に気を付けないとむせそうなほどシャンプーだか香水だかの香りが強い。
純粋なコーヒーの香りが消えてしまったことを残念に思っていると、筧さんが気に入らなそうに私を見た。
「聞こえてました? カップを温めたかって聞いたんですけど」
「カップ……いえ、以前教わった時には説明を受けなかったので、温めてはいませ……」
「っていうか、教わったとかそれ以前に、カップ温めるのって常識でしょ? 出穂さんって私より年上なのに何も知らないですよね。やばくないですか?」
「すみません」
筧さんの言うように、たしかにお茶を入れる際には湯呑に一度お湯を入れて温めると聞いたことがある。
コーヒーの場合もその方法が適用されるのかと感心している私に、筧さんは嫌悪感たっぷりの大きなため息を落とした。
「出穂さんって、入ってもう一ヵ月経ちますよね。だったらもっと臨機応変にやってもらわないと困るんですけど。出穂さんのためを思って言っちゃいますけど、出穂さんって、全然使えないですよね。ここまでくるとウケる」
……〝ウケる〟?
少し嫌な感じはあるものの笑顔で言われる。
なので、私も笑みを作って「すみません」と謝ると、そんな態度が気に障ったらしく、筧さんの目つきが険しくなった。