冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
「お疲れ様です」と挨拶した江並さんに「ああ」と返した岩倉さんが、私に視線を移す。
「コーヒーを入れるのにどれだけかかってるんだ」と言われ、ハッとした。
そういえば、頼まれていたんだった。
「すみません……あの、どうぞ。だいぶ飲み頃かと」
言い訳がましく言った私に、岩倉さんは呆れたように眉を寄せてからカップを受け取り口に運んだ。
「ぬるい」
「すみません。時間があるようなら入れ直しますけど……」
「もう行くからこれでいい。それより、自分の体重くらいしっかり管理しろ。おまえがあまりに自分に興味がないせいで頭が痛くなりそうだ」
嫌気が差したようなしかめっ面で言われ、苦笑いをこぼす。
〝自分に興味を持て〟
一緒に暮らし始めてから、岩倉さんがよく言う言葉だった。
岩倉さんの住むマンションは、駅から徒歩八分の場所にある。
地上六階、地下二階という高級マンションの外観は濃いグレー色で重々しくとても立派だ。入場者をチェックするゲートからエントランスまでの五十メートルほどのアプローチの周りは緑豊かで、ここが街中だということを忘れそうになる。
二十四時間コンシェルジュが滞在していて、各住戸への来客もチェックしているので、セキュリティー面は岩倉さんの言うようにとても厳重だ。