冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


地下には二百台近く停められる駐車場があり、岩倉さんの車もそこに置いてある。
マンション内にはラウンジや中庭、屋上テラス、専用ジムなどがあるから好きに使えと引っ越して数日経った頃、岩倉さんに言われたけれど、一度も利用したことはない。

毎日、部屋に直行だ。
こんな、私には分不相応な高級マンション内を気の赴くまま探索なんてできっこない。

エレベーターで六階に上がり、601号室の鍵を開ける。

カードキーで開錠されたのを確認してからドアを開け……玄関に入ったところでホッと息をもらした。
ここに住んでからもう二ヵ月が経つというのに、マンション内の至るところにちりばめられている高級感には未だに慣れない。

壁や通路にさえ、粗相があったら……と考えると、共有スペースはもはや戦場に近かった。
前の職場とは違う緊張感がある。

そんな私が、部屋の中ではそこまでの緊張を感じないのは、ひとえに岩倉さんのおかげだと思う。
私を、まず岩倉さん自身に慣れさせてくれたおかげで、岩倉さんのいる場所にも慣れることができていた。

だから、高級マンションの一室でも、玄関を閉めさえすれば、そこは落ち着ける空間だった。
それでも、さすがにホッとできるまでに時間は要したけれど。

帰りがけにスーパーで買ってきた食材を、キッチンの作業台に置く。
作業台部分とカウンター部分が黒で、キッチン扉がウォールナット材という色合いはシックで、岩倉さんのイメージにぴったりだ。

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