冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


「あ、もしかして私がみかんを買ってきたからですか? だとしたら誤解です」
「誤解?」
「頭痛にいいってネットに書いてあったので。だから、これは岩倉さんのためのみかんです」

日中、給湯室で〝頭が痛くなりそう〟だとか言っていたから、頭痛にいい食材を調べて買ってきたまでだ。

そう笑いかけた私に、岩倉さんは珍しくきょとんとした顔をしたあと、「あれはただの比喩だ」と呆れたように笑った。


今日の夕飯は、岩倉さんが作ってくれたバジルとベーコン、しめじのパスタと温かいコーンスープ。
食後には私が買ってきたみかんをふたりで食べた。

皮をむき、そのまま食べだした私を見た岩倉さんは信じられないといった顔をしたあと「性格が出るな」と言っていたけれど、本当にその通りだなと思った。

岩倉さんのみかんは、白い筋が綺麗に除かれていたから。

ふたりで食卓を囲んで早二ヵ月。
食事を一緒にしているだけでもわかることは結構多い。

たとえば、やたらと登場回数が多いキノコ類が岩倉さんの好物なだろうな、とか。
たとえば、好き嫌いはないと言ってはいたけれど、鶏皮だとか豚バラだとか、油の多いものはあんまりみたいだな、とか。

たとえば、優しい味から伝わってくる岩倉さんの思いやりだとか。

岩倉さんの作るご飯はとてもおいしくて、そして、一見怖そうな岩倉さん自身はわかりにくいだけで優しい人だ。

それを、この二ヵ月で知った。


< 34 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop