冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
「気持ちいいですか?」
ソファに座る私と、私の足の間の床に座る岩倉さん……という謎の体勢は私がお願いしたことだった。
頭痛にはみかんもいいけれど、マッサージもいいらしい。
岩倉さんの頭にタオルをかぶせ、その上からギュッと指先に力を入れてもんでいく。
「ああ……いいな、これ」という感想が返ってきて、俄然やる気が出る。
「終業後、更衣室で携帯から調べていたらこのマッサージがいいって出てきたので、江並さんの頭で練習させてもらったんです」
ギュッギュッと指で押しながら言う。
岩倉さんが「ずいぶん、仲良くなったんだな」と言うので「いい人ばかりで助けられてます」と答えた。
そのまま沈黙の時間が過ぎたあと、岩倉さんが顔半分だけ振り返った。
「家族の話、今日初めて聞いた。おまえはそういうことはなにも言わないからな」
下から見上げられ、へらっと笑みを返した。
「聞かれない限りはわざわざ言うことでもないので。私なんかの話をしたって誰もおもしろくないですから……」
「〝私なんか〟」
すぐに指摘が入り、「すみません」と謝る。
一緒に暮らしていれば、もっと他に目についたり気に障ったりする部分はあると思うのに、岩倉さんは私が言う〝私なんか〟だけに厳しい。
ネガティブな発言が嫌いなのかもしれない。
「でも、聞いてたんですね」
その話をしたとき、給湯室には江並さんと私のふたりきりだったはずだ。
岩倉さんは「コーヒーが遅かったからな」と言い、また前を向いた。