冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
「両親はどうした?」
「事故で、ふたりとも亡くなってます」
「そうか。……大変だったな」と静かに言った岩倉さんがややしてから言う。
「それからは親戚の家で周りの顔色を伺いながら過ごして、就職してからは、パワハラ上司に怒鳴りつけられながら仕事に追われ続けてきたわけか」
「あ、でも、高校卒業してから前の会社に入社するまでの三年半くらいはフリーターしてましたよ。高卒の初任給だとひとり暮らしを始めるにも足りなそうだったので、とりあえずバイト掛け持ちしてある程度お金を貯めてから満を持して就職したんです。そのタイミングで思い切って引っ越しもしました」
「それが、前のマンションか」
「はい」
あのマンションに引っ越す前に住んでいたのは、本当に古くて狭いアパートだった。
高校卒業した時、私の持っていたお金なんて、高校三年間のバイト代で貯めた六十万ほど。契約できる部屋の選択肢なんてほぼなかった。
でも、家から出たいという思いが強かったので、どんなに古くてもひとりで生活できることに幸せを感じてすらいた。
けれど、その建物が耐震強度の問題で取り壊される計画が持ち上がり……バイト三昧の日々で高校卒業時よりも少し裕福になっていた私は、あのマンションを引っ越し先に選んだのだった。