冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
その頃、前の会社への入社が決まったのも、引っ越しの後押しをした。
新しい部屋は前の部屋とは比べ物にならないくらいに綺麗で広くて、とてもワクワクしたのを覚えている。
「あれ、でも、あのマンションの部屋、岩倉さんから見て満足のいくものだったんですか?」
私からしたら大満足だったけれど、こんな高級マンションで平気な顔をして暮らせるような岩倉さんからしたら、そうではない気がする。
いくら角部屋で1LDKあったとしても、あのマンションはセキュリティー面でも立地面でも今の高級マンションよりもだいぶ劣る。
岩倉さんなら〝あんな部屋〟だとか文句を言いそうだ。
どうしてあのマンションに決めたのだろう……と不思議に思っていると、岩倉さんはひとつ息をついてから教えてくれる。
「このマンションの完成時期がずれ込んだ関係で、入居できるまでの仮の住居が必要になって仕方なく選んだまでだ」
「ああ、なるほど」
「もう終わりでいい」と言った岩倉さんが体勢を変えると、頭にかぶせていたタオルがぱさりと床に落ちる。
拾おうと私が伸ばした手を、岩倉さんが掴んでそのまま私をソファに押し倒した。
いかにも高級そうな黒い革張りのソファに体が静かに沈む。見上げると、岩倉さんの端正な顔がすぐそこにあった。
あまり表情豊かとはいえない瞳が私をじっと見下ろす。