冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
『あの、なにか言いつけてくれれば、やっておきます』
体調や気持ちが落ち着くまではただ家で安静にしていればいいという俺の考えとは反対に、出穂は自由を不安がっているようだった。
〝役に立っている〟という自覚がないと、ここに居ていいかが、もっと言えば自分自身に存在意義があるのかどうかがわからなくなり不安なのかもしれない。
それがわかってからは、毎日仕事に出る前に、簡単な家事を頼むようにした。
それと同時に、なにか心が落ち着き楽しんでできることがあるといいと思い、ネットで〝女性〟〝趣味〟〝安らぐ〟で検索した結果引っ掛かった〝編みぐるみ〟という手芸キットを購入して渡した。
『暇な時間にでも、好みのものを選んで作ってみろ。集中していれば余計なことも考えずに済む』
三十六個も違うセットを選んだのは、うさぎだとか猫だとか種類やカラーが色々あり、どれがいいかがわからなかったから、面倒になった結果だったのだが。
二週間も経たないうちに三十六個全部が完成したのを見て、この手の商品の追加の購入はやめた。
好きに楽しんでくれればいいと思っただけで、仕事をさせたいわけではない。
ずらっと規則正しく並んだそれは、ある意味、とてつもなく不気味だった。
『作っていて、楽しいとは思ったのか?』
『楽しい……どうですかね。なんだか夢中で作っていたので、感情はあまり……』
戸惑った表情で答えた出穂は、『でも』と一列に並んだ〝編みぐるみ〟をひとつ手に乗せると笑った。
……笑った。