冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
『初めて現物見たので嬉しくなって買っちゃったんです。なかのビー玉がキラキラしてて綺麗だと思って。でも、よく考えたら私、炭酸苦手なので、よかったらどうぞ』
引っ越しの挨拶としてのラムネはおかしいものの、出穂自体は無礼なわけでも感じが悪いわけでもなかった。
ただ……俺の機嫌が最高に悪かったというだけだった。
『おまえ、いつもそんなふうにヘラヘラ笑ってるのか? 相当呑気な人生を過ごしてきたんだな』
声に出してから後悔した。
なにもわざわざ傷つけるようなことを言わなくてもよかった。八つ当たりにもほどがある。
自分の子供じみた部分に自分自身で舌打ちしたくなりながら、謝るために口を開こうとして……出穂が浮かべた笑顔に驚いた。
『すみません。よく言われるんです。一時期、周りを不愉快にしちゃうほどだったら嫌だなって悩んだりもしたんですけど、でも、癖というか直らなくて。つい、笑っちゃうんです』
自嘲するような笑顔で言った出穂が『不快にさせちゃってごめんなさい』と頭を下げる。
『……いや。いい』
声になりそびれた謝罪の言葉がいつまでも喉の奥に引っ掛かるようで、気持ちの悪さを抱えたまま玄関を閉める。
出穂のカラッとした笑顔はまるで、高くぬけた夏の空のようだった。
キッチンで開けたラムネが、異常なくらい喉を、そして体を潤していくのを感じる中、瓶の内側に浮かんでは消える炭酸の泡のように、罪悪感がじりじりとしていた。
それが、最初の出会いだった。