冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


週末、「十時に出るから準備をしておけ」と言われ、連れ出されたのはファッションビルのコスメカウンターだった。

そこに着いてから〝みかんの勘違い〟の一件を思い出した。
私は肌を潤わせたくてみかんを購入したわけではないし、それを岩倉さんも理解したはずなのにどうして……と見上げていると、岩倉さんが女性店員に声をかける。

「一時間ほどで戻ってくる。その間にベースに使う物からメイクに必要な物まで、彼女に合うものをひと通り選んで包んで用意しておいてくれ。支払いは戻ってきてから済ませる」

一月第二週目の土曜日。
岩倉さんのそんな言葉のせいで、私は綺麗な店員に囲まれ、ああだこうだと言われながら顔中をいじられ測定やらなにやらされる羽目になった。


約束通り一時間で戻ってきた岩倉さんは、私を見ると目を見開き「変わるもんだな」と感想を述べた。

「女性って怖いなって、私も思いました」

それは、この一時間、私の顔を好き放題いじり倒した店員にも、鏡の中の自分にも、両方に言えることだった。

岩倉さんが〝ベースからメイクまでひと通り〟なんて言ったため、店員がここぞとばかりにあれもこれもと選んで詰めてくれたショップの紙袋はずしりと重たく、一度車に置いてから、再度ビル内に戻る。

お会計が気になったのに、私が化粧品の説明を受けている間に岩倉さんが済ませてしまったので、その金額はわからない。

お礼は伝えたものの、それだけでは絶対に済まされない金額だということは無知な私にもわかった。


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