冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
「あ、の……前の職場の上司に、似た人がいて……」
「上司? 今もいるのか?」
周りを見回しながら聞く岩倉さんに、うつむいたまま首を振る。
「わ、わかりません……本人かもわからないです。ただ似てるだけだったのかも……」
もう一度確認する勇気はなかった。
ただ、もし本人だったら、そして見つかったらどうしよう、という不安が襲われ顔を上げられない。
もう二ヵ月も聞いていないはずの怒鳴り声が頭の中で聞こえ、体が震えるのを止められない。
そんな私に、岩倉さんは「少し移動するか」と言い、私の肩を抱いてゆっくりと歩きだした。
私が一度も顔を上げられないままたどり着いたのは、一角にあるコーヒーショップだった。
店内にはコーヒーの香りが溢れている。
緑と茶色を基調とした店内の一番奥の席に私を座らせた岩倉さんは、周りをひと通り見て私に言う。
「見る限り、若い客しかいない。この席は外からは見えないし、安心していい」
そう言い残し注文をするためにカウンターに向かった岩倉さんの後ろ姿を、恐る恐る目で追う。
それから、うつむいたまま店内を見回した。
岩倉さんの言う通り、そこには上司の姿はなくホッと息をついた……と同時に、自分が情けなくなる。
岩倉さんのおかげで前の会社を辞めてもう二ヵ月が経つ。なのにまだ、こんな風に恐怖から縮こまってしまう自分が嫌だった。
岩倉さんだって、そう思ったはずだ。
ちっとも立ち直れていない私に落胆しただろうか。