冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
「営業代行業は、ブラックのところも多い。そのへんは大丈夫なのか?」
まだ会話が終わってなかったことに驚きつつ、へらっと笑顔を浮かべた。
「さぁ……でも、みんな同じ時間まで帰れていないので、こういうものなのかなって……」
「そんなわけないだろ。社員全員がそんな状況なのに改善しない会社側がおかしい。どうせ残業代もきちんと支払われていないだろ」
疲れきった頭のなかを、岩倉さんの声が滑っていく。
まともになにかを考えられる状態ではなかった。頭だけでなく、足元までフラフラしてくる。
就職して二ヵ月。しっかりとした休みをとれた記憶はなかった。
体調を崩して休みたいと電話をしたとき、上司に〝甘えるな〟と怒鳴られた。すぐに来いと言われたので熱っぽい体で出社したら、そこでまた延々と怒られて……それっきり、体調が悪いなんて言えなくなった。
長時間勤務に疲れきって、目を閉じても、頭の中には常に上司の怒鳴り声が響いていてよく眠れなくなったのはいつからだったっけ。
常に電話の呼び出し音が耳の奥で聞こえるようになったのは、いつから?
どこにいてもやたらと寒さを感じるようになったのは、いつからだった?
自分自身に対しての疑問が、答えを見つける回路にたどり着く前に消えていく。
最近はずっとこうだった。
なにもかもを、最後まで考えられない。
答えが見つからない。
さすがに十一連勤が効いたのかなぁ、と思いながら肩にかけていたバッグに手をつっこみ手探りで鍵を探す。