冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


「自分のことを好きな女性がいるって知っても、全然驚いたり喜んだりしないんですね」

好意を寄せられているとわかっても、表情筋ひとつ動かさないのは信じられない。
なので、驚いて聞くと、岩倉さんは〝なにをそんな驚いてる〟とでも言いたそうな顔で答えた。

「俺が興味を持っていない人間が俺をどう思っていようとどうでもいいからな」
「そんなものなんでしょうか……。私だったら、私なんかを好きだって言ってくれる人が現れたら、焦ってパニックになって嘘かもしれないって疑って……でも、最後には嬉しくてにやにやしちゃうと思います」

信号が赤になり、停車すると同時に車内が急にシンとなる。
不思議に思って隣を見ると、岩倉さんがじっと私を見ていたので、慌てて口を開いた。

「あ、いえ、その、もしもの話であって、そんな人はいないと思っ……」
「まだ〝私なんか〟なんて言葉が普通に出てくるんだな」
「え……あ、すみません……」

そういえば、岩倉さんが私のその口癖を嫌がっていたことを思い出す。

『〝私なんか〟はやめろ』
『おまえはもう少し自分に興味を持て』
『俺の言うことは聞くこと。ただし、反論は受け付ける』

同居を始めたときに決めた三つのルール。
破ったところで罰則があるわけではないし、岩倉さんも注意するだけで謝ればそれ以上追究はしないけれど、結構、約束を破っている自覚はあった。

特に〝私なんか〟は、相当意識していないとつい口から出てしまう。


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