冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
『体調は、その、大丈夫です。ただ、最近なんでだか体温調整……っていうんでしょうか。そういうのがうまくできなくなってるみたいで、ずっと寒いんです』
自律神経がうまく働いていないのだと思った。
だから体温調整もできないし、こんなに見るからにビクビクして不安そうにしているんだろう。
八月に会ったときは、あんなにもカラッとして明るい笑顔を浮かべていたのに、一体いつから……と記憶を辿り、ひったくり未遂があった時のことを思い出した。
あの時、出穂の笑顔を見てなにかが引っ掛かったことを。
俺と出穂はただの隣人でしかないし、関係のない赤の他人だ。俺は来週末には引っ越すし、そうなればもうまったく関係がなくなる。
だから、あの時、気付いてやれていれば、なんて思う自分はおかしい。
俺が見守る必要はないし、変化に気付いたからといってそれを気にかけてやる義務だってない。
放っておいて、最悪の事態になったところで誰に責められるいわれもない。こいつだってもう大人だ。自分でどうにでもする。
――そう思うのに。
八月のあの日。
俺の言葉に傷つきながらも笑顔を返した出穂を思い出すと、このまま見過ごし見捨てる気にはなれなかった。