冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
『いつからだ?』
『え?』
『体温調整ができなくなったり、不整脈だとかが出たり……あとは、理由のわからない不安に急に襲われるようになったりしたのは、いつからだ?』
〝どうしてこんな話を?〟と言いたそうにする出穂に、『どうせ、時間がある。世間話に付き合え』と返す。
命令するように言うと、彼女は納得がいったように答え出した。
『たぶん、八月の半ば頃です。このマンションに引っ越してきてから、エアコン使ったの一週間くらいだけなので。……あの、でも、大丈夫です』
『大丈夫かどうかを決めるのは医師だ。病院には行ったのか?』
『……行ってません。時間もないし、多分、大丈夫ですから』
なんとか笑っている、そんな顔で言われる。
『行った方がいい』
『あの、本当に大丈夫です』
心配からの俺の言葉は、出穂には届いていないようだった。
彼女の耳から入った俺の声は、その中に留まることを許されず消えていく。それを感じ、これ以上は無駄だとため息を落とした。
聞く耳を持たない頑固な性格なのか。それとも、遠慮しているのか。はたまた、耳を貸すだけの余裕すらないのか。
この態度が元からの性格なのか、それともこの二ヵ月で変わった部分なのかすら分からないため、判断がつかない。
だから、〝大丈夫〟だと突っぱねられてしまえば、それ以上立ち入れない。ただの隣人でしかない俺にそんな権利はない。
彼女をあまりに知らない自分に、なぜか苛立ちを感じた。
そして、このエレベーター内にはふたりきりだというのに、一向に俺の方を見ない出穂にもイライラしていた。