冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
初対面で自分が好きだというどら焼きを、甘い物が嫌いだと言っている俺に薦めてくる傲慢さはどこにいった。
それに、曲がりなりにも心配している俺に対して、〝大丈夫です〟のみで対応するのは失礼すぎる。
八月、初めて出会ったときには、おどおどしながらもしっかり目を合わせて笑っていたのに。
けれど、命令してこちらに視線を向けさせるのは納得がいかず、結局、エレベーターが直るまでの二十分弱を、睨むように出穂の横顔を見て過ごす羽目になった。
こっちを向け。
そう念じる俺の視線の先で、出穂は疲れ切った様子で壁にもたれていた。
薄い肩がどうしようもなく心もとなかった。
エレベーターから無事脱出してから八日目。十月四周目の金曜日。
再びエレベーターで一緒になった出穂は今にも倒れそうなほどに虚ろな目をしていた。
後から乗ってきた出穂は俺と目を合わせることもなく小さな会釈だけすると、操作盤の前に立ち、横の壁に寄り掛かる。
この八日間、正直、いつインターホンを押してやろうかと考えていた。
こいつの生活リズムは明らかに普通ではないし、恐らく仕事も普通ではない。ブラック企業だろう。
このままこの生活を続けて死にたいのかと聞いてやりたかったのに、出穂の帰宅時間はたいてい零時を回る。
さすがに他人の家のインターホンを押していい時間ではない。
だから、次、顔を合わせたら、今度は捕まえて洗いざらい吐かせると決めていた。