冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


「岩倉さんは、私のことを適当に扱わない。だから……怖いです」

学生の頃から恋愛に対しては淡泊だった。
恐らく、特定の誰かを感情的に想ったことはない。好きな女といっても、せいぜい〝俺にとって都合がいい〟程度のもので、いなくなったからと言ってどうということもなかった。

だから、今は例外で、それは俺にとっても怖いと言えばそうなのかもしれない。

「真剣に向き合っていれば、普通は怖いもんだろ。おまえが怖いと思うのは、一方通行じゃないと感じている証拠だし、独りよがりじゃ嫌だと感じ始めている証拠でもある」
「独りよがり……」
「今まで付き合ってきた男とは、ろくな信頼関係もなかったんだろ。ただおまえが与えるだけの関係でしかなかった。裏切られても傷つかない相手なら、なにも怖くはないからな」

『見る限りおまえは人の顔色をうかがいすぎるし自己肯定感が異常に低い。だから、どんなひどい男や企業が相手でも、必要とされているという一点に幸福を感じて自分からは手放せない。こんなものは推理でもなんでもない』

俺はいつかそう言ったが、あれはたぶん少し違っていた。
人の顔色をうかがう癖があるのは事実で、恐らく原因は生い立ちにある。

けれど、自己肯定感が低くなったのは、恐らく、二ヵ月のブラック企業での職場環境のせいであって、一過性だ。

上からへし折られて踏みつけられて、一時的にどうしようもなく自信を失っていただけだろう。

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