冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
八月に俺のところに引っ越しの挨拶をしにきた際、出穂はおどおどしながらも俺としっかり目を合わせて笑った。
自分が好きだというだけの理由でどら焼きを押し付けてきた。
あれは、きちんと自分を認めていないとできない行動だ。自分に自信がなければ、俺が嫌な顔をした時点で謝って引き下がる。
今、俺に言い返してきたところを見ると、失っていた自信を取り戻し始めているのかもしれない。
「じゃあ私、岩倉さんを信頼してるんですね」と納得したように言った出穂は急に大人しくなり、それから静かに話し出す。
「岩倉さんは、慰めるのが上手ですよね。私は、この生活の中で、ずっと岩倉さんに手当してもらっている気がしてました。会話もご飯も全部、手当みたいに優しいから。なのに、私、なかなか上手に治せなくて……迷惑ばかりかけてすみません」
「別に傷が癒えようとそのままだろうと、俺はおまえを大事にするだけだ。だから焦る必要もないが……それでも気になるなら自分で治せ」
一拍置いたあと「風呂で染みるんだろ」と付け足す。
『お風呂で染みちゃいそうですね』
ひったくり未遂事件の時、出穂が言った言葉だった。
「え?」と不思議そうな顔で見上げてきた出穂に「なんでもない」と返すと、そのうちに彼女が俺の首に腕を回してきた。
なにかと思えば、そのまま唇が重なる。
好き勝手にキスした彼女は、離れると目を伏せ頬を赤く染めた。