ずっと甘溺愛婚 ~それでも性悪お嬢様は俺様御曹司に溺愛される~


 月菜(つきな)さんを送って帰ると、何やら話し声が聞こえる。今この家にいるのは聖壱(せいいち)さんだけのはずだし、もしかしたら電話中なのかしら? 仕事の電話ならば邪魔をしてはいけないと思い、静かにリビングの扉を開ける。
 ソファーに座る聖壱さんがスマホを耳に当てているのを見て、静かにして正解だったと思った。

「……だから、月菜(つきな)さんはずっとお前の事を心配しているんだ。柚瑠木が《《あの事》》を話せないのなら、俺から月菜さんに話す事だって出来る事は分かっているよな?」

 もしかして電話の相手は柚瑠木さん? 聖壱さんは月菜さんに、柚瑠木さんの過去については話すことが出来ないと言っていたはずなのに……どうして?
 でも聖壱さんがこんなことを言い出すからにはきっと理由があるはず、私はそのまま黙って見守る事にした。

「ああ、そうだろうな。聖壱はこの事に関係ない、お前はきっとそう言うと思ってた。だけど月菜さんは違う、彼女はお前の妻なんだからお前の過去も知る権利があるはずだ」

 それほどまでに月菜さんに過去を知られたくないのだろうか? 普段冷静な柚瑠木さんが声を荒げているのが少しだけ電話口から漏れ聞こえた。
 それでも私は月菜さんを応援したい、彼女ならいつか柚瑠木さんの頑なな心の扉を開けることが出来ると思えるから。

「……分かってるさ、余計なお世話だってお前が言いたいことも。でも俺だってお前の幼馴染をそれなりに長い間やらせてもらってるんだ、少しくらい首を突っ込んだっていいだろうが」

 乱暴な言い方だけど、結局聖壱さんは柚瑠木さんの事が放っておけないと言っているようなものね。不器用な男同士の友情を聞かされてなんだかムズムズするわ。


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