ずっと甘溺愛婚 ~それでも性悪お嬢様は俺様御曹司に溺愛される~
「……はあ!? 月菜さんが帰ってこない?」
突然聞こえてきた聖壱さんの大きな声で、眠りから目が覚める。いつもと違う天井、硬くて狭いベッドに自分が医務室で休んでいたことを思い出す。
いいえ、それよりも聖壱さんは今なんて言った? 月菜さんが帰ってこないとは、どういう事?
「落ち着け、柚瑠木。まだ月菜さんに何かあったと決まったわけじゃない、料理教室の方に……ああ、ちゃんと来ていたって? それじゃあ、いったいどこへ……」
私は身体を起こすとカーテンを開けて、近くに立っていた聖壱さんに近付き耳を澄ました。まず柚瑠木さんの話を聞いて状況を整理しなくては。
『あの日……聖壱が月菜さんに全てを話したと思い、僕は彼女をひどく責めてしまったんです。彼女がどんな目で僕を見るのか知るのが怖くて、ずっと月菜さんを避けてしまったんです』
あの夜そんな事が? 月菜さんは何も言ってこなかったけれど、きっと傷付いていたはず。じゃあ、今日彼女が帰らないのも何か意味があるのかもしれない。だけども……
「柚瑠木さんっ、月菜さんはそんな人では……!」
「分かってます! 分かってますが、僕はそれでも……!」
初めてだった、柚瑠木さんが私達に対して声を荒げたのは。いつも聞けない感情のこもった声に、どれだけ柚瑠木さんが悩んでいるのかを知らされた。
いつも無表情な彼だって、本当は大きな苦しみの中にいるのだ。