ずっと甘溺愛婚 ~それでも性悪お嬢様は俺様御曹司に溺愛される~
さっさと受付を済ませると、ロビーの奥にある一人用の椅子へとゆっくり腰かける。周りを見れば楽しそうにお腹をさすりながら微笑み合う夫婦の姿や真剣に出産の雑誌を見ている男女、その幸せそうな雰囲気にソワソワした気分になってくる。
決して嫌な気持ちなわけではないけれど、自分がこの中に入ってもいいのかという落ち着かない感じで。
このホスピタルの産婦人科は待ち時間が長いと聞いていたので、用意してきた小説を広げて時間を潰そうとする。でも普段見慣れていたはずの本の字が何故がぐにゃりと歪んだように見えた。
するとその瞬間に、グラリと上半身が大きく傾いた気がして……
「香津美!」
ここにいるはずの無い聖壱さんの声が聞こえたかと思ったら、倒れかけた身体を力強い腕に支えられる。すぐにそれが今ここに一番一緒に居て欲しいと思った人なのだと分かったけれど……
「聖壱さん、どうしてここに?」
朝にはもう部屋から居なくなっていたのに、なぜ彼が今ここにいるのか? 社長である彼は今日も朝から大切な会議が入っていたはずなのに。
「そんな事は後だ。とりあえず俺に寄り掛かれ、さっき倒れそうになっていただろう?」
そう言うと私の椅子の横に立ち、その腕でふらつく身体を支えてくれる。私は大人しく彼のその言葉に甘えることにした。