飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~
契約結婚……には隠しごとがお約束で
「またですか? 今日はしなくても……」
「ダーメ。ほら、ちゃんと行ってらっしゃいのキスをして?」
櫂さんとの初めてのキスから三日、私は櫂さんに事あるごとにキスを強請られるようになった。
おはようのキスはもちろんおやすみのキス、いってらっしゃいのキスがあればおかえりなさいのキスももちろんある。
櫂さんはいちいち恥ずかしがる私を見て楽しんでいるような気もするけれど……
「じゃあ櫂さんからしてください。いつもいつも私からなんて、恥かしいですし」
「駄目だろ、千夏。君が俺に頑張って欲しいからしてくれる、そういう約束だ」
そういう約束って、私が櫂さんに何か出来る事はありませんか? と聞いた答えがこのキスだなんて、ちょっと私が欲しかった答えとは違うような気がするけれど。
こうすれば仕事のやる気が出るんだと言われて断る事も出来ず、何度か私からキスをさせられた。
もちろん櫂さんにはお仕事だってバリバリ頑張って欲しい、だけど私だって恥ずかしいものは恥ずかしいのよ。
「千夏、早くしないと遅刻しそうなんだけど?」
にっこり微笑んでスマホの画面を見せられると、いつも櫂さんが家を出る時間を過ぎていた。
きっとこれ以上嫌だと言っても櫂さんは聞いてくれないでしょうし、覚悟を決めて背伸びして彼の唇にチョンと自分のそれをくっつける。
すぐに離れても櫂さんは満足そうな顔をして私の頭を撫でる。
「は、早くしないと遅刻しますから!」
「ああ、今日も頑張れそうだ。行ってくるよ、千夏」
そう言って櫂さんは玄関の扉を開けて出て行った。彼に似合う爽やかなシトラス系の香りを残して。