飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~
同じ二階堂の屋敷に住んでいながら、私と梓乃の接点はほとんどなかった。梓乃は兄や姉のように私を特別扱いすることもなく、いつも大人しく本を読んでいるような女性だった。
私は彼女が感情的に怒る姿も楽しそうに笑う姿も見たことはない、それくらい梓乃はあの家では目立たない存在だったのに。
今までこんな風にはっきりと悪意を伝えられたことなんてなかった。私に興味がないだけだとしても、攻撃的な態度をとらないでくれた梓乃に良い感情を持っていたのだけど……
「私の幸せなんて誰も願っていない、かあ。そうよね、あの家の人間ならそうに決まってるわよね」
そう明るく言葉にしても、心には大きなショックを受け傷が出来た。敵でも味方でもない存在、それが私にとってどれだけ有難かったか梓乃は知らないでしょうけど。
手紙を綺麗に折りたたむと、私は机の引き出しの中にそっとしまう。ビリビリに破いて捨ててしまおうかとも思ったが、妹からの初めての手紙を破り捨てる事は出来なかった。
「このオルゴールも見つかったら、きっと櫂さんを怒らせてしまうわよね」
小さな箱型のそれは、ふたを開ければすぐにメロディーが流れだす。人気の曲だから、聞かれればすぐに【別れのメロディー】だとバレてしまう。
そんなものを堂々と置いておけるわけもなく、クマのぬいぐるみだけベッドの上に置いてオルゴールはクローゼットの奥深くに隠した。