飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~
でもあの男性が約束した土曜日、その時が近付くにつれ何だか心がざわつくような妙な気分になった。まさか来るわけがない、こんな私にもう一度会いになんて。そう思っているのに……
「千夏お嬢様、今日は妙におしゃれしてません? これから寝る時間になるっていうのに、まさか夜遊びでも覚えたんですか」
寝る時間って、まだ八時前じゃない。それにあの人のためにわざわざお気に入りを選んで着たわけでもないわ。ただ、ちょっと今日はこの服の気分だったのよ。
「別に何着ようと私の勝手でしょ? 今日はもう上がって、旦那さんに美味しいものでも作ってあげて!」
使用人の女性を部屋から追い出すと、カーテンの隙間から窓の外をのぞく。彼はまだ来ていないようだけど……
時計が八時前五分を指す、なんだか落ち着かなくなってきた。そう思っていると、部屋の外が何だか騒がしい、そっと扉に近付き耳を澄ませる。
『ねえ、今日こそはこの縁談の相手を私に代えてくれるのよね?』
『ああ、分かってる。父さんだって同じ気持ちだった、心配するな』
またあの話? 先週の縁談の事で話をしているようで、少し姉の苛ついた声が廊下に響いてる。姉がこの縁談の相手ではないのなら、それは妹二人のどちらなのかもしれない。
「まあ、私には関係ないし? 勝手に頑張ってちょうだい」
そう言ってドアから離れ、窓の外をもう一度眺めた。たった一度会っただけの男性の事が、どうしてこんなに待ち遠しいのか……この時は何も分からないままに。