飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~
「単刀直入に聞いてもいいかな? 君はなぜあんなものを千夏に贈ったの?」
梓乃が最後のデザートを口に運び終わったのを確認して、櫂さんはそう彼女に問いかけた。梓乃はそれも想定内だと言うように表情一つ変えずにゆっくりとスプーンを置いた。
紅茶のカップに映る私の顔は不安そうに揺れている、それに気付いた櫂さんがテーブルの下で優しく手を握ってくれて……
「ズルい、と思ったのよ。同じ決められた結婚のはずなのに、姉さんだけが幸せになるなんて」
「え? 梓乃、それってどういう……?」
意味が分からず聞き返す、同じ決められた結婚って一体どういう事なの? 少なくとも私が二階堂の家にいる間にそんな話は聞いてない、ただ聞かされなかっただけかもしれないけれど。
「もしかしてタカミヤホールディングス社長子息、高宮 一輝さんとの結婚話のこと? あの噂って本当だったんだ……」
「な、そんな話がいつ……っ!?」
何かを思い浮かべるように口もとに手を添えて考え込んだ櫂さんと、静かに俯いた梓乃の姿にその話が本当なのだと信じるしかなくなってしまう。
名前を聞いただけでも分かる有名な企業、その御曹司ともなれば良い噂も悪い噂も嫌でも耳にする。それは梓乃の相手となる男性も同じことで……
「女嫌いで理想ばかりが高い、そんな四十路近い男が私の結婚相手なんて……笑っちゃうでしょ?」
俯いている彼女の表情はこちらからは分からない、だけど決して平気そうな声音には聞こえなくて。やっと私に梓乃があんな事をしてしまったのかが理解出来た。
きっと彼女は不安で、誰かに助けを求めていたのだろう。それは私でなくてもよかったのかもしれないけれど、それでも少しだけ私を思い浮かべてくれたことを嬉しく思ってしまった。