飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~


「ああ、そうだ。来週の月曜はちょっと早く出なければならない、朝食は食べていけないと思う」

 そう言ってスケジュール帳を開く(かい)さん、それは今年の物だから私が見ることは出来ない。それでもあの中に父との事が書いてあるのかもしれない、そう思うとすごく気になった。
 そんな私の視線に気づいたのか、櫂さんが手帳を閉じて私を抱き寄せた腕に力を込める。

「あの、櫂さん? そろそろ晩御飯の用意をしたいので……」

「ああ、そうだな。すぐに着替えて手伝うよ」

 そう言うと櫂さんは鞄を持って寝室へと入っていく、そんな彼の後姿を黙って見ていた。どこかで何もしなければ、この穏やかな日々が続いてくれるのかもしれない。そんな迷いを私の胸の中に残したままで。

「そう言えば来週の月曜は何があるんですか? お仕事なんですよね」

「ああ、愛知県の××市まで行かなくてはならなくて。取引先の企業のお偉いさんと少し大事な話し合いがあるんだ」

 ××市……? 確かそこにも父の関わっている会社があったはず。まさか……そんなのは偶然よね? そう思いたくて、気のせいだと首を振った。
 一つを疑えば何でも怪しく感じるようになる、それは思っていたよりも私の気持ちを重くさせていった。

千夏(ちなつ)、具合でも悪いのか? 全然食べてないようだけど」

「え、ああ。ごめんなさい、ちょっとはしゃぎすぎて疲れたのかも。私、先に休みますね」

 櫂さんにそう言うと食器を片付けて先に寝室のベッドで横になる。モヤモヤした気持ちに蓋をするように、固く目を瞑って眠りについた。


< 156 / 207 >

この作品をシェア

pagetop