飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~
「デキてません! それは櫂さんが一番分かってることでしょう!」
心当たりも無ければ、そんな初期症状だってありはしない。それに月のお客さんだってほぼ狂いなくきているのだから。
それなのに櫂さんは意地悪そうに微笑んで私を見つめてくる。
「どうだろう? 俺が我慢出来なくて夜中にこっそり千夏に手を出してる、なんて可能性もあるかもしれないだろ?」
「っ……何を言ってるんですか‼ 冗談にもほどがありますよ?」
櫂さんがそんな事をするなんてありえないし、私だって気付かないわけがない。そういう事に疎い私を揶揄っているということは流石に分かる。
怒る私を見て櫂さんも少しは悪いと思ったのか、お腹から手を離してそれを私の頬へと移動させる。
「悪かったよ、千夏。そんな怒った顔も可愛いが、嫌われるのは困るからな」
「そういう事ばっかり言ってると、そのうち信用無くしますよ?」
これは嘘、私は何時でも櫂さんの事を信じていたい。父の事についてだって彼が悪いことに手を貸しているなんて思いたくなかった。
「それは嫌だな。でも忘れないで、俺が千夏との子供を望んでいるのは本当だから」
「櫂さん……」
じゃあ、どうして私たちは契約結婚なんですか? 口に出せないその言葉が私の胸の中で渦巻いてる、嬉しいはずの言葉なのに素直に受け取れない。
上手く笑顔が作れたのか、その時の私には分からなかった。