飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~
「ですが、それほど良い話なら私ではなく……」
姉や妹が見合いの相手として相応しいのではないのか、そう言いかけて口を噤む。これ以上余計な事を言えば、きっと姉の怒りが爆発しかねない。
このところ彼女が不機嫌だったのは、きっとこの縁談話が原因だったはずだから。
「お前でなければこの話は無かったことにする、だそうだ。役立たずのお前にこの家のためになれることができたんだ、有難いくらいだろう?」
ぎりりと歯を噛みしめる、確かに私がこの家の役に立つことは無かったと思うわ。だからと言ってこの家の人間が私のために何をしてくれたというのよ?
私に向けられるのは冷たい視線と心無い言葉だけ、そんな環境の中で我慢して過ごしてきたのに。
「お前に話すことはそれだけだ、理解出来たのならさっさと出ていけ」
自分の言いたいことが終わると、この部屋にいて欲しくないと言わんばかりに追い出しにかかる。そこに我が子に対する優しさなど欠片も無かった。
扉を開こうとノブに手を伸ばす、この部屋になど二度と呼ばれたくはない。
「どんな手を使って取り入ったんだろうな、この娘があんな大企業の御曹司様になんて!」
「本当よ、柚瑠木兄さんにも気にしてもらって。生意気よね、たかが愛人の子のくせに」
知らないわよ、そんなの。お見合いだって代わってくれるんなら喜んでお願いするわ。言いたいことを口にする事も出来ず、私は部屋を出ていつもの自室へと戻った。