飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~


 私にそんな恋愛テクニックなんてあるわけないって(かい)さんだって分かってるはずなのに、簡単そうに言われても困ってしまう。
 彼が望んでいるなら受け入れても構わないと思っただけなのに、そんな言動をとった櫂さんは止めて欲しかっただなんて。
 ……訳が分からない。

 従兄の柚瑠木(ゆるぎ)兄さんや月菜(つきな)さんもこんなやり取りをしていたりするのかしら? 穏やかなあの二人からはちょっと想像できないけれど。

千夏(ちなつ)はファーストキスなんだろ? こんな簡単に俺なんかに奪われてもいいのか」

 櫂さんはおかしなことを言う。確かに私は初めてのキスになるけれど、それがどうして簡単に櫂さんと口付けたことになってしまうの? それに……

「私のキスの相手は夫である櫂さんしかいないのに、俺なんかにと言われても困るんですが……」

 契約関係とはいえ私と櫂さんは夫婦になったのだから、そういった行為の相手は彼以外考えられない。櫂さんにとって妻の私はそういう相手ではないの?
 不安になって彼を見上げれば、何故か櫂さんが顔半分を隠すように手で覆ってる。彼に耳が少し赤く見えるのは気のせいなのかしら……?

「……あの、櫂さん? 私何か変な事言いましたか」

「天才だな。千夏は……俺を幸せな気持ちにする天才だ」

 いつもは目を逸らしたりしないのに、今の櫂さんは私の顔を見ようともしないでそう小さな声で呟いた。私が櫂さんを幸せな気持ちにする天才……?
 意味が分からないまま、首を傾げてみせるとますます櫂さんは顔を隠そうとしてくる。いつも余裕なのかと思ってたから、その様子が意外で彼の事をじっと見つめてしまう。


< 45 / 207 >

この作品をシェア

pagetop