飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~
契約結婚……で特別な優しさに触れて
「あの、そんなに急いでいったいどこに行くんですか? 私あまり外には出たことが無くて……」
準備が終わってリビングに戻った私の手を握ると、櫂さんはやや強引に家の外に連れ出した。さっきの事でまだ彼は怒っているのか、少しもこちらを見ようとはしてくれない。
いつも櫂さんが私に向けてくれるのは笑顔ばかりだったので、それに甘えすぎていたのかもしれないわ。
それでも彼に少しそっけない態度を取られるだけで、こんなにも不安な気持ちになってしまう。今までどんなに辛くても耐えてきて、自分はそこそこ強い人間だったと思っていたのに……
しょんぼりとして櫂さんに手を引かれて歩いていると、不意に彼の歩みが止まる。
「……どうしました、櫂さん?」
「ああ、すまない。今はどうしても千夏と二人きりではいたくなくて……」
振り返った櫂さんは少し困ったような表情で私を見ると、気まずそうにそう言った。その瞬間「ガーン」と頭を強く何かで殴られたような気分になる。
まさか結婚初日で夫が妻になった私と、二人きりでいられないと言ってくるなんて……あんまりなのではないかと。
ショックで頭がグラグラしてくる、何か答えなければと思うけれどうまく言葉が見つからない。
「そ、そうですか。すみません、全然気がつかなくて……」
二人での食事時間が心地良いと思っていたのは自分だけだったの? あの時間を櫂さんも楽しんでいるのだと疑いもしなかった。
嫌味でない笑顔と、穏やかな会話。そして温かな美味しいオムライス。それは全部私だけが喜んでいたの……?