飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~
一気に足が重くなって歩みが遅くなる。あんな優しい言葉ばかりをくれていた櫂さんに、こんなことを言わせてしまうなんて本当に私は厄介な存在なのかもしれない。
誰かに好かれたい、好かれようと努力をする前にいつもこうやって距離を取られてしまう。
……慣れているはずの事なのに、どうしてこんなに胸が痛いのかな。
鼻がツンと痛くなってじわっと涙が滲んできた事に気付く。おかしい、いつもなら父や兄姉に手を上げられてもこんな事にはならないのに。
慌てて手のひらで拭って誤魔化すつもりだったのに、その瞬間こちらを振り返った櫂さんとばっちり目が合ってしまった。
「……」
「……あ、えっと。これはちょうど目にゴミが入ってしまって痛くて」
信じられないという表情で私を見つめたまま固まってしまった櫂さんに、私は焦ってその場しのぎの言い訳をする。これ以上面倒な妻だと思われたくはなかったから。
それなのに、櫂さんは急いで近づいて私の頬を両手で包んであげさせると……
「見せてみろ、千夏。そんな泣くほど痛いのなら、すぐに俺に言ってくれればいいだろう?」
私を心配してくれる声、優しく触れる櫂さんの手のひらは温かくて、やっぱりこの人にだけは嫌われたくないなって思った。
今まで誰に嫌われても我慢できたけど、彼に冷たくされたらきっと立ち直れなくなる気がする。