飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~
どこからともなく声をかけられて、ベランダからキョロキョロと周りを見回した。
この家に関わる人間でこんな気軽に私なんかに声をかけようとする人なんてほんの少ししかいない、だとすれば今のは私が話しかけられたわけでは無いのかもしれない。そう思ったけれど……
「コラ、どっちを見てるんだ。俺はこっちだぞ、二階堂 千夏さん」
もう一度声をかけられて、今度はハッキリと自分が呼ばれてるのだと理解した。声のする方を探してみるとベランダの斜め下、少し離れた場所にその男性は立ってこちらを見ていた。
「貴方、誰なの? どうして私の名前を……?」
少なくともこの屋敷で見たことのある顔ではない、こんな美男子がいればきっとうわさになるはずだし。それに彼が立っている場所は二階堂の屋敷の敷地内、誰でも簡単には入れるような場所ではない。
あまりにも不思議な事ばかりで、私はこの見知らぬ男性に対して恐怖を感じる事を忘れてしまってた。
「俺のことが知りたいか? 千夏がここまで自分で来れたら君が知りたい事を全て教えてやってもいい」
少し楽しそうに私の話しかけて来る男性、この人の目的がなんなのか私にはさっぱり分からない。この屋敷で私に声をかけても何のメリットもない。
二階堂の中で、私は一番価値のない人間なのだから。
「……無理よ、行けないわ。私はこの部屋から出ることが出来ないもの」