飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~


「ごめんなさい、(かい)さん! 私そんなつもりじゃ……本当に、その……」

 なんて言って謝ればいいのか分からない、だから櫂さんは赤くなるほど怒っていたのね。ぬいぐるみ扱いしたことも、胸を押し付けてしまった事も申し訳なくて頭を下げることしか出来ない。

『卑しい女の血を引いた娘が!』

 過去に言われた言葉が頭の中で繰り返される。違う! 私もお母さんもそんな事を言われるようなことなんてしてないのに……!
 愛人の娘というだけで理不尽な目にどれだけあってきたか分からない。私自身を軽くみられるようなことだってあった。でもそれは勝手な周りの思い込みで……

「本当に違うの、私は……」

 櫂さんに何を伝えたいのか、頭が混乱してうまく言葉に出来ない。
 もし櫂さんにもあの人たちと同じように思われたら、どうしていいのか分からなくなってしまう。
 そんな事が頭の中でグルグルとまわって……

「……あのな千夏(ちなつ)、俺はただ運が良かったと思っているだけだぞ? だからそんな風に謝る必要もない」

「……え?」

 櫂さんの前で頭を下げたままだったのに、彼はそんな私の上半身を起こすと照れ臭そうに頬を掻いた。

「だから、俺が怒ってたのは……千夏があまりに無防備だから、だ。他の男にもこんな事をされたら堪ったもんじゃないって」

 言われている事が理解出来なくて、私は櫂さんの前で首を傾げてみせる。
 けれど彼は怒っていなかったし、私のことを卑しい女だとも思っていなかった。私が勝手に被害妄想になって、櫂さんの事を疑ってしまったんだわ。


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