飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~
それでも謝ろうとする私の前髪をサラリと上げたかと思うと、櫂さんは露わになった私の額に唇を押し付けた。
一瞬の出来事にポカンとしていると、櫂さんはさっさとベッドを降りてリビングへと行ってしまった。経験豊富であろう彼に翻弄されることに悔しく思いながら私もベッドから降りると朝の支度を始めた。
顔を洗うため洗面所へと向かう途中、リビング奥のキッチンからはいい匂いがして。ついお腹が鳴ってしまって、慌ててそこを通り過ぎた。
「わあ、美味しそう! これ全部櫂さんが作ったんですか?」
「まさか、半分はレトルトだよ。千夏が思っているほど俺は何でも器用にこなせる男じゃない」
櫂さんはそう言うけれど、この朝食の半分は彼の手作りという事になる。
美味しそうな焼き鮭にふっくらした卵焼き。具だくさんの味噌汁にほうれんそうのお浸しと、どれがレトルトなのかも分からなかった。
ホカホカと湯気ののぼるつやつやのご飯を見て、またぐううとお腹が音を立てた。
「ご、ごめんなさい。あんまり美味しそうだったから、つい……」
食意地のはった妻だと思われてはいないだろうか? 櫂さんの前では素敵な女性でいたいのに、実際に見られるのはこんな場面ばかりだから。
私はいつも櫂さんの魅力的な姿に戸惑ってばかりなのに……
「気にする事はないだろ。さあ、席について食べよう」
「はい!」
櫂さんは私よりずっと大人で落ち着いていて、どんな時も余裕のある素敵な人だから。余計にその相手は自分でよかったのかと不安になる。
でもそれも櫂さんは全部吹き飛ばしてくれるから、今の幸せに浸っておこうと思っていた。