飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~
部屋の中に戻ると、屋敷がにわかに騒がしい事に気付いた。さっきの人と話していいる間に何かあったのだろうか?
そっと廊下へと続く扉に耳を当てて部屋の外の様子を窺ってみる。
「お嬢様は、またそんな事をして……」
「しー! こうでもしなきゃ私がこの家の情報を得る方法が無いんだから仕方ないでしょ?」
確かに私はこの家にとっていてもいなくても変わらない存在、だけど何にも興味が無いわけじゃないの。そう思われるように見せておかなければ、余計にあの人たちから馬鹿にされるから。
私はこの屋敷で暮らしてく上で、自分という人間の心と身体を守るため色んな事を覚えたの。
『どうしてよ! 何でよりによってあんな子が選ばれるの? 私がこの日をどれだけ楽しみにしてきたか!』
このヒステリックな声を上げているのは姉だろうか? ここ最近はとても機嫌が良かったと聞いていたのに、とてもじゃないけどそんな風には感じない。苛立ったような足音は二人分、姉ともう一人は多分……
『分かってる、あんな娘に何の価値もない事をこれからきちんと奴等に知ってもらうさ。あの男だってすぐに相手をお前に代えたいと言い出すはずだ』
この声の主は長男のようね、この二人は仲が良いのだけど今日は二人ともかなりピリピリしているみたい。こんな時間に大事な話し合いがあるから出るなとは言われたけど、いったいどんな内容だったのかしら?
『この話、あのあの女に伝えるの?』
『まさか、どうせすぐにお前に代わる話だ。あの娘には何も言う必要なんてない、父さんもそう言うはずだ』
【あの女】というのは多分私の事だと思うのだけど、何の話をしているのかはさっぱり見当がつかない。使用人の女性も何の話か分からないようで、首を傾げていた。
不思議な男性との出会いと、家族の気になる会話を不思議に思いながらその日の夜は眠りについた。
……この日、私のこれからの人生に大きな変化が始まっている事に気付きもしないまま。