【完】素直になれない君と二度目の溺愛ウェディング

秋も深まってきたのに北斗の額にはうっすらと汗が滲む。 それをハンカチで拭い取りながら、上着を脱ぐ。

…やっぱり北斗はふんわりとしている。 海とはまた違う。 不思議な空気感を彼が包んでいる。そんな自分とは全く違う北斗に小さな頃から恋をしていた。

少しだけ頼りない所もこの歳になってからも守りたいと思ったものだ。

けれどそんな感情さえ最近懐かしく感じる。 間違いなく私の初恋だったはずなのに、どこか遠い昔の幼い記憶のようで

26歳になるまで知らなかったの。誰かに愛される日々がこんなに幸せだという事を。

「仕事忙しそうなのね」

「まーね。とはいっても父さんの、社長の仕事を見様見真似でしているって感じだから」

北斗はいつも通りだった。

私と海が付き合う前から何も変わらない。 何十年も一緒に居た人と変わらない空気感で会話をする。

何も変わっていなかったのに、変わったのは私の気持ちだった。

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