【完】素直になれない君と二度目の溺愛ウェディング
社長は頭をハンカチで拭ってソファーにどかりと腰をおろした。
見た目に反してお洒落な人だ。 社長室にはオフィス用には思えない、まるでホテルのような洗練されたテーブルとソファーが並ぶ。
奥に社長の机と椅子があり、パソコンと書類が散らばっていた。
「ふんふん。 うん。 はいはい、分かりましたよぉー。 今日は13時から猿渡会長がいらっしゃるから案内お願いね~。
あ、相馬くん。悪いんだけどこれ黒岩くんにリスト貰っておいてアポ取りしておいてもらえる? 僕の出演したテレビを見ていくつか連絡きているみたいだから。」
「はい、かしこまりました。」
「猿渡会長との打ち合わせには北斗も出席するように伝えといて。
北斗、もう出社してる?」
「北斗さんは今取引先まで行っている所です。 お昼までには帰って来るとおっしゃっていましたが、一応連絡入れておきますね」
「あい、お願いね。」
古い考えを持っている経営者ではない。 だからこそまだまだ新米の自分が社長室に居れる。
阿久津社長は気さくでフットワークが軽く、彼を父親のように慕う社員は多い。
俺もその一人だ。 竹を割ったような性格で社員の面倒見は良い。 ワンマンじゃなく社員一人一人の意見を聞くが、決断する時は社長らしく威厳がある。
東北の田舎で生まれ育った自分は中々故郷に帰る機会もないので、可愛がってくれる阿久津社長をたまに父に重ねている。