独占欲が止まらない。クールな社長の裏の顔。
「深山ー。お前なんか話してくれよ。」

「私には楽しい話なんてございません。むしろこの高所のなか、無の境地にいこうかと思っているところでございます。なのでお静かにお願い致します。」

「おい、無の境地ってなんだよ。お前にそんなこと出来るのか?」

「初めてでもやってみるしかありません。とにかく動かないで、喋らないでください。社長も是非、怖さを忘れるため無になりましょう。座禅を組めばいいのかしら。」

「あはは…おもしれぇ。ここ最近で一番笑えるわ。」

「笑ってはいけません。無ですよ!社長。」
社長の笑い声は止まらず私の意識は無になれない。

「お黙りください!まったく…」

「だからお前には無理なんだって。」
クスクス笑われて私は頬を膨らしながら苛立つ。

「高所が嫌いなんだろ。落ちるのが心配なんだろ。手を握っててやるから安心しろ。この手に意識集中させとけ。」

そういい社長は私の右手を恋人のように絡めてきた。
咄嗟に離そうとしたが離れない。
私は異性と手を繋ぐなんて幼稚園以来してないかも。ドキドキしてきた。

そう言えばさっき口を塞がれた…
あれって、もしかして、社長とキスしちゃった??
真っ暗な中温かく柔らかいものに塞がれたと思う。
でも手のひらじゃなかったような…。

私の頭の中は口を塞がれたこと、この恋人繋ぎの手に集中しすぎて話すことを忘れて無言の時間を過ごした。
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