暁のオイディプス
 あの方は、いったい何者なのだろう。


 その夜寝所に横たわり、開けられたままの戸の外に広がる夜空を眺めた。


 西の空に沈みゆく、上限の月が覗いている。


 残暑の蒸し暑い夜で、月も霞んで見える。


 寝苦しい夜、私の心の大部分を占めていたのは、先ほどの女だった。


 土岐家の広大な屋敷の奥深く、あのような方がお住まいだったとは。


 土岐の御屋形様の姫君だろうか。


 いや、御屋形様は若い頃から家督相続争いで各地を転々とされ、ここに定着してご正室をお迎えになられたのは、最近の話。


 ご嫡男もまだ年若い。


 あのような大きな姫君がおられるとは考えにくい。


 あの方は私と同じくらいか、ちょっと年上だったと思われる。


 ということは……、もしかすると御屋形様のご正室なのかもしれない。


 それとも側室か。


 だが侍女はあの方を、「姫様」と呼んでいた。


 いずれにしても、土岐家一門の姫君であることは間違いないだろう。


 土岐一族の親戚関係は多岐に渡っていて、私も全体像は把握していない。


 私の知らない一門の方々もたくさんいる。


 いくら考えても分からないし、明日事情通の光秀にでも聞いてみようと思っているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。
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