暁のオイディプス
***


 「そうか、見られてしまったか」


 「……」


 次に土岐の御屋形様の館に出向く機会があった時。


 意を決して御屋形さまに、あの姫君について尋ねた。


 前回お邪魔した時に御屋形様は留守で、帰りに庭園を横切っていたらたまたま別棟で琵琶を奏でる姫君に出会ったことを。


 「……あの姫は、私の娘だ」


 「えっ、御屋形様の? でもご嫡男はまだ五つと聞いておりますし、あの姫君は、奥方様とそう変わりない年齢に見えました」


 「六角家より正室を迎えたのは、私が土岐家の権力争いに一段落し、美濃に定着してからだから、ほんの最近のこと。若い頃に何人か側室がいて……。その中の一人がそなたの母・深芳野だった」


 「……」


 「深芳野と出会う前、側に仕えていた女がいた。身分が低いゆえ側室にすらすることもできず、娘を産んですぐに亡くなってしまった」


 「では、その時にお生まれになったのが」


 「有明(ありあけ)。私の長女だ」


 有明という名か、あの姫君は。


 有明、すなわち夜明け。


 確かに朝の光が夜空を染めていくような、鮮やかな雰囲気をまとう姫君だった。
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