暁のオイディプス
 私の父は、斎藤利政(さいとう としまさ)という。


 元は京で油売りの家柄だったとも聞くが、父は昔の話はあまりしないのではっきりしない。


 いつしかここ美濃(みの)の国に住み着いて、名門斎藤家を乗っ取って……いや後継者として迎えられ、美濃の支配者である土岐(とき)家の信頼を得て、政務の一端を担うようになり。


 美濃の守護(現在の県知事)である土岐家を支える守護代(しゅごだい)の立場でありながら、すでに父の権勢は土岐家をしのぐほどに。


 実際の美濃の支配者は、父であると言っても過言ではない。


 そんな父に、私は頭が上がらない。


 美濃守護代として政務をてきぱきこなすやり手の父からしてみれば、何をやってももたもたしている私は実に頼りなく、物足りなく感じられるようだ。


 始終小言を繰り返され、叱られてばかり。


 今や美濃を支配する一門となった斎藤家の嫡男として、もっと父の期待に応えなければならないとは分かってはいるのだけど……。


 「織田信秀の息の根を止められなかったのが痛い。重臣たちを失った恨みもあり、手負いの獅子のごとくいずれ報復に出てくる可能性が高い。それに備えて尾張との国境の防御はこれまで通り固めておけ」


 父はそう締めくくった。


 今日もあいも変わらず、戦の話ばかり。


 毎年毎年、同じことの繰り返し。


 いつまでこんなことが繰り返されるのだろう。


 戦なんかやめて、みんなで仲良く楽しく暮らせないものなのだろうか。


 もううんざりだ!
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