暁のオイディプス
***


 雪が降りしきった日の私の勘違いをきっかけに、手紙を送り合うよりも直接会ったほうが手っ取り早いことを悟った私は、折を見て有明姫の元を訪れるようになった。


 ただし相手は、美濃守護の娘。


 噂になって、何より父の耳に入ってはまずいので、あくまで父である土岐の御屋形様のご機嫌伺いのついでに……という形を取った。


 土岐家の者たちは一同に姫の行く末を案じていたため、私の存在は心強く映ったようで、一律に歓迎されていた。


 ……文ではつい気取った文言に走りがちで、話題も文学論などといったお堅い内容に終始していたが。


 直接会って話してみると、身の回りの出来事など、飾らぬ話題が増えていった。


 「高政は、京に出向いたことはあるのか」


 ようやく美濃にも春が訪れた頃。


 その日も私は姫の元を訪れていた。


 政務においても重要な案件がない時期だったため、時間的にも余裕があり、借りていた書物を返しに姫の元を訪れた。


 姫は庭の木にかけられた鳥かごの中の鳥に、餌を与えていた。


 鳥に餌を与えつつ、私に問いかけてきた。


 「いえ、私は美濃より外に出たことはありません。ですがいずれ家督を継いだあかつきには、美濃守護代職継承のご挨拶に、公方様(室町幕府将軍)に謁見したいと考えております」


 「そうか。いずれは都の地を踏めるのだな」


 姫は憂鬱そうにつぶやいた。


 「私は今もこれからも、一生この地を離れられまい」
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