暁のオイディプス
⑨
「だめだ。絶対にだめだ」
晩春のある夕暮れ。
父・斎藤利政と二人きりの際、また嫁取りの話をしてきたので、思い切って意見した。
会ったこともない他国の姫よりも、土岐家の姫君のほうが家柄的にもこの上ないのではないかと。
「なぜです。他国の姫ですと、両家の結びつきには好都合かもしれませんが、その家が敵方につこうものなら離縁しなければなりません。そのような危険を鑑みるに、御屋形様の姫を娶ったほうが、今後特になることが多いように考えます。家柄のみならず、人柄も私にはもったいないくらいの姫でらっしゃいます」
「……そなた、土岐の姫君に会ったのか?」
「……」
「御屋形様に命じられでもしたのか」
「いえ、そのようなことは何も。ただ私の判断で」
「いずれにしても、あの姫君はだめだ」
繰り返し言い放ち、父は一瞬庭の向こうの空を見上げた。
その方角はちょうど、土岐家の館のある方角だった。
「……私は、土岐家の有明姫以外を妻に迎える気はありません」
最近斎藤家内で実績を積み上げてきているという自負が、私を強気にさせた。
すると父は、
「どうしてもあの姫がいいと申すのならば、条件がある」
「条件……」
私の胸は高鳴った。
どうせ政務に励めとか、戦で手柄を挙げろとか、そんなものだろうと思った。
その程度のことならば、どんなことでも可能なような気がした。
有明姫と生涯を共にできるのならば。
晩春のある夕暮れ。
父・斎藤利政と二人きりの際、また嫁取りの話をしてきたので、思い切って意見した。
会ったこともない他国の姫よりも、土岐家の姫君のほうが家柄的にもこの上ないのではないかと。
「なぜです。他国の姫ですと、両家の結びつきには好都合かもしれませんが、その家が敵方につこうものなら離縁しなければなりません。そのような危険を鑑みるに、御屋形様の姫を娶ったほうが、今後特になることが多いように考えます。家柄のみならず、人柄も私にはもったいないくらいの姫でらっしゃいます」
「……そなた、土岐の姫君に会ったのか?」
「……」
「御屋形様に命じられでもしたのか」
「いえ、そのようなことは何も。ただ私の判断で」
「いずれにしても、あの姫君はだめだ」
繰り返し言い放ち、父は一瞬庭の向こうの空を見上げた。
その方角はちょうど、土岐家の館のある方角だった。
「……私は、土岐家の有明姫以外を妻に迎える気はありません」
最近斎藤家内で実績を積み上げてきているという自負が、私を強気にさせた。
すると父は、
「どうしてもあの姫がいいと申すのならば、条件がある」
「条件……」
私の胸は高鳴った。
どうせ政務に励めとか、戦で手柄を挙げろとか、そんなものだろうと思った。
その程度のことならば、どんなことでも可能なような気がした。
有明姫と生涯を共にできるのならば。