暁のオイディプス
⑩
***
「こんなに七夕の歌があったのか……」
有明が最近興味を持って愛読しているという、建礼門院右京大夫(けんれいもんいんうきょうのだいぶ)の歌集の写本を、私も借りて読み始めていた。
建礼門院右京大夫とは今から四百年ほど前、平家が全盛を極めていた頃、平清盛の娘で高倉天皇の皇后であった平徳子に仕えた女性。
華やかな宮中で、今をときめく平家の貴公子・平資盛(たいらのすけもり;清盛の孫)と恋に落ちるも、やがて勢いを取り戻した源氏に平家は京を追われ、やがて長い戦いの末に壇ノ浦の合戦で滅亡してしまう。
資盛も壇ノ浦にて入水し、悲嘆に暮れた右京大夫は過去に思いを馳せた歌を多数残した。
その中で目を引くのが、七夕を題材にした歌の多さだ。
歌を葉の裏に書いて、短冊のように飾る風習があったとかで、その際に記した歌を後日収集して、歌集に残したと言われているが……。
「何ごとも 変はりはてぬる 世の中に ちぎりたがはぬ 星合の空」
何事も変わり果ててしまった世の中だけど、七夕の約束はたがえることがない。
星合(ほしあい)とは七夕のこと。
七夕の約束とは、織姫と彦星が一年に一度、七月七日に天の川を挟んで再会するという約束。
その約束は決して破られることがなく、毎年七夕の夜に二人は天の川越しに再会するのだ。
「こんな約束、意味がないじゃないか。一年に一度だなんて……。顔も忘れてしまいそうだ」
思わず私は苦笑しながら顔を上げた。
「そう……。だろうか。右京太夫と平資盛みたいに二度と会えなくなるくらいなら、一年に一度でも会えた方が幸せではないか」
有明は首を傾げた。
「こんなに七夕の歌があったのか……」
有明が最近興味を持って愛読しているという、建礼門院右京大夫(けんれいもんいんうきょうのだいぶ)の歌集の写本を、私も借りて読み始めていた。
建礼門院右京大夫とは今から四百年ほど前、平家が全盛を極めていた頃、平清盛の娘で高倉天皇の皇后であった平徳子に仕えた女性。
華やかな宮中で、今をときめく平家の貴公子・平資盛(たいらのすけもり;清盛の孫)と恋に落ちるも、やがて勢いを取り戻した源氏に平家は京を追われ、やがて長い戦いの末に壇ノ浦の合戦で滅亡してしまう。
資盛も壇ノ浦にて入水し、悲嘆に暮れた右京大夫は過去に思いを馳せた歌を多数残した。
その中で目を引くのが、七夕を題材にした歌の多さだ。
歌を葉の裏に書いて、短冊のように飾る風習があったとかで、その際に記した歌を後日収集して、歌集に残したと言われているが……。
「何ごとも 変はりはてぬる 世の中に ちぎりたがはぬ 星合の空」
何事も変わり果ててしまった世の中だけど、七夕の約束はたがえることがない。
星合(ほしあい)とは七夕のこと。
七夕の約束とは、織姫と彦星が一年に一度、七月七日に天の川を挟んで再会するという約束。
その約束は決して破られることがなく、毎年七夕の夜に二人は天の川越しに再会するのだ。
「こんな約束、意味がないじゃないか。一年に一度だなんて……。顔も忘れてしまいそうだ」
思わず私は苦笑しながら顔を上げた。
「そう……。だろうか。右京太夫と平資盛みたいに二度と会えなくなるくらいなら、一年に一度でも会えた方が幸せではないか」
有明は首を傾げた。