暁のオイディプス
***
「お前たち、何をしている!?」
稲葉山城に戻り、自室に向かって歩いていた時だった。
城に仕える男どもが中庭に集まって、何かを燃やしている。
よく見ると私の部屋から、書物を続々と運び出しているようだ。
その時、書物の表紙がちらっと見えたのだがびっくり。
『源氏物語写本』
連中は私の貴重な蔵書を燃やしているのだ。
「何をしているのだ! やめろ!」
使用人たちを突き飛ばし、まだ燃えていない分を急いで取り除き。
それから井戸の水をくみ上げて火を消した。
だがすでに灰になってしまったものも……。
「お前たち、何を考えているのだ! これらが貴重な古書と知ってのことか?」
かつて土岐の御屋形様からいただいたものだった。
「も、申し訳ありません! 大殿に命じられまして……」
「父に?」
父が私の蔵書を燃やせと、連中に命じたようだ。
何が目的だ?
「父上!」
あまりのひどい仕打ちに耐え切れず、私は父の部屋へと向かった。
幸いまだ起きていて、部屋で酒を飲んでいた。
正室の小見の方も一緒だった。
「なんじゃ。夜更けに騒がしい」
父は迷惑そうに私を見るが、
「父上こそ夜更けに何をなさるのですか! 私の貴重な蔵書を燃やすなど、正気の沙汰とは思えません!」
「何を大袈裟な」
父は苦笑した。
「諸悪の根源を、灰に帰したまでだ」
「諸悪の根源とはどういうことです。あれらはこの国の名作中の名作ばかり……」
「本を読むなとは言わぬ。武士ならば、もっとためになるものを読め! 女・子供が読むような、あんな軟弱な恋物語など、武士の教養に相応しくない!」
「な、軟弱とは何です。源氏物語の知識は公家のみならず、武家にも必要な教養であり、」
「あんなものばかり読んでいるからお前は、土岐の御屋形のような軟弱な武士になるんだぞ!」
「お前たち、何をしている!?」
稲葉山城に戻り、自室に向かって歩いていた時だった。
城に仕える男どもが中庭に集まって、何かを燃やしている。
よく見ると私の部屋から、書物を続々と運び出しているようだ。
その時、書物の表紙がちらっと見えたのだがびっくり。
『源氏物語写本』
連中は私の貴重な蔵書を燃やしているのだ。
「何をしているのだ! やめろ!」
使用人たちを突き飛ばし、まだ燃えていない分を急いで取り除き。
それから井戸の水をくみ上げて火を消した。
だがすでに灰になってしまったものも……。
「お前たち、何を考えているのだ! これらが貴重な古書と知ってのことか?」
かつて土岐の御屋形様からいただいたものだった。
「も、申し訳ありません! 大殿に命じられまして……」
「父に?」
父が私の蔵書を燃やせと、連中に命じたようだ。
何が目的だ?
「父上!」
あまりのひどい仕打ちに耐え切れず、私は父の部屋へと向かった。
幸いまだ起きていて、部屋で酒を飲んでいた。
正室の小見の方も一緒だった。
「なんじゃ。夜更けに騒がしい」
父は迷惑そうに私を見るが、
「父上こそ夜更けに何をなさるのですか! 私の貴重な蔵書を燃やすなど、正気の沙汰とは思えません!」
「何を大袈裟な」
父は苦笑した。
「諸悪の根源を、灰に帰したまでだ」
「諸悪の根源とはどういうことです。あれらはこの国の名作中の名作ばかり……」
「本を読むなとは言わぬ。武士ならば、もっとためになるものを読め! 女・子供が読むような、あんな軟弱な恋物語など、武士の教養に相応しくない!」
「な、軟弱とは何です。源氏物語の知識は公家のみならず、武家にも必要な教養であり、」
「あんなものばかり読んでいるからお前は、土岐の御屋形のような軟弱な武士になるんだぞ!」