暁のオイディプス
 「小見の方……様……」


 繰り返される父のお小言を諫めてくれたのは、意外なことに正室の小見の方だった。


 息子の孫四郎の将来のためには、側室の子である私など邪魔な存在であるはずなのに?


 「なぜそんなことを言う小見の方。孫四郎が引き立てられれば、そなたも嬉しいのではないか?」


 父も驚いて尋ねる。


 「一度決められたことを、そうやすやす翻すべきではありません。すぐに二転三転されてしまいますと、家臣たちも混乱してしまい、大殿も信用を失ってしまいます」


 自分の息子にとっては不都合であるにもかかわらず、小見の方は私を助けてくれたのだった。


 簡単に前言撤回するのを繰り返すと、周りの者も呆れてしまいそのうち誰もついてこなくなると、父を諫めてくれた。


 「う、うむ、確かにそうでもあるが……」


 小見の方に一目置いている父はおとなしくなり、私もその隙に逃れることができた。


 敵であるはずの正室に救われたのは情けなくもあったが、少なくとも小見の方は実の子に依怙贔屓をしたり、父に余計なことを吹き込んで私を蹴落とそうとする人ではなさそうなのが救いだった。


 だがあの温厚な小見の方から生まれた子が、帰蝶や孫四郎など、揃いも揃って人を見下す態度を取る、鼻持ちならない子供たちであるのが残念だった。


 二人とも父に似てしまったのだろうか。
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