愛の距離がハカレナイ
「あのさ、わざわざ言わなかったけど、先週大変だったのよ。」

低い声で香澄が椅子を転がして、私のそばに寄って来る。

「阿里が法事で有休を取った日に、新しい書類の作成があったんだけど…。」

そして香澄はチラリと反対の方を伺う。

「代わりに内田さんが指示されたんだけど、それがかわいそうでさ。南川課長の指示も慣れた阿里にする感じで、でも何にも分からない内田さんも聞き直すことが出来なくて…。」

私は内田さんの方を確認した。

内田晴香 24歳、私達事務職の後輩。

決して彼女が仕事を出来ないという訳でない。

どちらかというと、飲み込みは早い方だと思う。

だからかえって、先走って自分の解釈をしがちな所もあるけれど。

「結局いつものが始まってね。南川課長も悪気がないんだけど、行き違いのあった理由を根掘り葉掘り聞くじゃない。それに内田さんが我慢出来なくなってしまって…。」

あ~あ、それは気の毒に‥。

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