ある悪女の手記
私は、友人である女の家へと急いでいた。
友人の女と言うのは、(もり) 藤江(ふじえ)であり、藤江は、私と大学時代からのなかであった。

藤江は、大学時代、中々に切れる女であった。裁縫や料理の腕も良い。元々の家柄も高く、ツンと上がった大きな目を備えた顔は、大学内では評判の美形であった。
しかしそんな、出来た彼女も、高いお家柄故に、在学中、同じく高い家柄の男子からお見合いを受けた。
私はてっきり、見合いの日が近づくにつれ愚痴を言っていた彼女の事だから、見合い相手と上手く縁を結ぶのは難しいだろうと考えていたのだが、彼女は見合いの翌日、顔を晴れやかにさせて大学へ来た。

彼女によると、見合い相手は、藤江の父親の上司、その息子であり、美男、美声、そして優しさを兼ねた素晴らしい人なのだそうだ。
相手を痛く気に入った彼女は、授業中まで彼への手紙を隠れて書く始末。

私は一度、一心に筆を動かす彼女に対し、親友として注意をした事がある。

「ちょっと、藤ちゃん。(当時、私は藤江を藤ちゃんと呼んでいた。)見合いの相手が、どんなに美男子の御坊ちゃまだったか知らないけどもね、あなたのその、お手紙病。歳を重ねても教鞭を取っていらっしゃる、お裁縫の先生にまで睨み付けられている事。気が付いた方が良いわよ。」

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